モチベーション#
std::function
は関数ポインタ、ラムダ式、関数オブジェクトなど多彩なファンクターを格納することができる。コールバックを引数で指定させたいときなど、「関数っぽいもの」を統一的に扱う場面で広く使われる。
しかし、std::function
に渡すファンクターはcopy assignableでなければならなず、move-onlyなラムダ式や関数オブジェクトは渡すことができない。
move-onlyなラムダ式を使いたくなる場面なんてあるのかと思われるかもしれないが、unique_ptr
などのmove-onlyなオブジェクトをラムダ式に渡したくなることがしばしばある。
std::unique_ptr<int> ptr = std::make_unique<int>(334);
std::function<void()> fn = [ptr = std::move(ptr)](void) {
/* ... */
}; // error! move-onlyなラムダ式はstd::functionに格納できない
unique_ptr
の代わりにshared_ptr
を使えばstd::function
に渡せるようになるが、パフォーマンスのことを考えるとできればunique_ptr
のまま渡したい。
そこで、move-onlyなファンクターを扱えるstd::function
の代替クラスunique_function
を実装した。このようなクラスは、c++標準化委員会で現在も議論されている内容で、std::unique_function
やstd::any_invoker
という名前でproposalが出されている(P0228、P0288)1 2。
完成イメージはこんな感じ。
std::unique_ptr<int> ptr = std::make_unique<int>(334);
komori::unique_function<void()> fn = [ptr = std::move(ptr)](void) {
/* ... */
}; // ok
do_something(std::move(fn)); // moveすればファンクターを渡せる
unique_functionの実装#
できるだけコードが短くなるよう意識してコードを書いた。その結果、100行未満に収めることができた。
以下がunique_function
の実装全文である。
#pragma once
#include <utility>
#include <functional>
namespace komori {
namespace detail {
template <typename F, typename Res, typename... ArgTypes>
struct invoke_helper {
static Res invoke(void* storage, ArgTypes&&... args) {
return
std::invoke(*static_cast<F*>(storage), std::forward<ArgTypes>(args)...);
}
static void deleter(void* storage) {
delete static_cast<F*>(storage);
}
};
}
template <typename T>
class unique_function;
template <typename Res, typename... ArgTypes>
class unique_function<Res(ArgTypes...)> {
using invoker_t = Res(*)(void*, ArgTypes&&...);
using deleter_t = void(*)(void*);
template <typename F>
using helper = detail::invoke_helper<F, Res, ArgTypes...>;
public:
unique_function(void) : storage_(nullptr), invoker_(nullptr), deleter_(nullptr) {}
unique_function(nullptr_t) : storage_(nullptr), invoker_(nullptr), deleter_(nullptr) {}
template <typename F, typename DF=std::decay_t<F>>
unique_function(F&& f)
: storage_(new DF(std::forward<F>(f))),
invoker_(&helper<DF>::invoke),
deleter_(&helper<DF>::deleter) {}
unique_function(unique_function&& f) : storage_(f.storage_), invoker_(f.invoker_), deleter_(f.deleter_) {
f.storage_ = nullptr;
f.invoker_ = nullptr;
f.deleter_ = nullptr;
}
template <typename F>
unique_function& operator=(F&& f) {
unique_function(std::forward<F>(f)).swap(*this);
return *this;
}
unique_function(const unique_function&) = delete;
unique_function& operator=(const unique_function&) = delete;
~unique_function(void) {
if (storage_) {
deleter_(storage_);
storage_ = nullptr;
}
}
explicit operator bool(void) const {
return storage_;
}
void swap(unique_function& f) {
std::swap(storage_, f.storage_);
std::swap(invoker_, f.invoker_);
std::swap(deleter_, f.deleter_);
}
Res operator()(ArgTypes&&... args) {
return invoker_(storage_, std::forward<ArgTypes>(args)...);
}
private:
void* storage_;
invoker_t invoker_;
deleter_t deleter_;
};
}
やっていることは非常に単純。ファンクターがセットされた際、new
により動的にメモリ確保してvoid* storage_
に格納する。また、invoke_
(関数呼び出し)、deleter_
(メモリ解放)という2つの関数ポインタを初期化する3 4。
コードを短くするためにいくつか実装をサボった部分がある。
- small object optimization(SOO):libstdc++のstd::functionの実装を眺める で見たように、
std::function
の実装では小さなメモリに収まるファンクタは動的メモリ確保を行わず、静的領域に変数を格納されることが多い。一方、上記の実装では、ファンクターのサイズに関係なく動的にメモリを確保している5 - std::invoke: 関数の呼び出し部分でc++17で追加されたstd::invokeを使用している。c++11, 14しか使えない環境の場合、std::invokeに相当する機能を実装する必要がある(そんなに難しくない)
- const、noexceptなどのquelifier
コードは短いが色々調べながらの実装だったのでとても勉強になった。
本ページの実装は以下でも参照できる。
https://gist.github.com/komori-n/dcc1af3f79481ff085a4835e6bcf8084
個人的には、
std::unique_function
がstd::function
のmove-only版であることは分かりやすいが、std::any_invoker
は何をするクラスなのか分かりにくいと思う ↩︎C++23で
std::move_only_function
という名前で正式に標準ライブラリ入りするらしいmove_only_function - cpprefjp C++日本語リファレンス ↩︎実装のミソはここ。
unique_function<Res(ArgTypes...)>
は格納している型に関するtemplate parameterは持っていないが、ファンクターを渡された時に、その呼出方法とメモリ開放方法を覚えておくことで、ファンクターの型を忘れてしまっても良い構造になっている。頭いい。 ↩︎unique_function
の中では動的に確保したvoid*
でファンクターを管理しているので、delete
する際は適切にメモリ解放するdeleterが必要になる。 ↩︎これに対応しようとすると、型のサイズに応じて
invoke_helper
を分岐させたり、invoker, deleterに加えてmover(moveの時にポインタ付け替えで済ますかstd::move
をするか)を実装する必要があり、かなり大変。 ↩︎